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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
この男は、喧嘩にかけては素早い腕を片一方持っている上に、懐中にはいつも刃物を呑んでいる。見込まれた二階の色男も堪るまい。
それにしてもこの二階は、よく勘違いや、間違いの起りっぽい二階ではある。
その時、二階では田山白雲が泰然自若として、燈下に、エー、ビー、シーを学んでおりましたところです。
「まっぴら、御免下さいまし……」
がんりきの百蔵は、充分に凄味を利かせたつもりで、煙草盆を提げてやって来るには来たが、
「やあ」
一心不乱に書物に見入っていた目を移して、百蔵の方へ向けて田山白雲の淡泊極まる返答で、がんりきの百蔵がほとんど立場を失ってしまいました。
「こりゃ色男じゃ無え――」
がんりきの百蔵のあいた口が、いつまでも塞がらないのは、この淡泊極まる待遇に度胆を抜かれたというよりも、また、その淡泊によって、いっぱし利かせたつもりの凄味が吹き飛ばされてしまったというよりも、ここにいる絵師が、たしかに色男ではないという印象が、百蔵をして、あっけに取らせてしまったのです。
これは色男ではない――少なくとも、がんりきが梯子段を上って来る時まで想像に描いていた色男の相場が狂いました。