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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

「いや、あたしここから入るの……あなたに抱いていただいて、ここから入るの」

「ききわけがない、ここからは入れません」

「お怒りなすったの、あなた、悪かったら御免下さいね。ですけれども、あたし、そっとここから入れていただきたいの、そうして誰も気のつかないうち、あなたとだけ、お話ししていたいの」

「言うことが聞かれないなら勝手になさい、中からこの戸を締めてしまいますよ」

「その戸をお締めになれば、あたしのこの指が切れちゃうでしょう。それでもいいの?」

狂女はわざと自分の手を伸して、ガラス戸の合間に差し込んでしまいました。

「あたし、あなたに正直なことを申し上げてしまうわ、それで嫌われたらそれまでよ」

「手をお放しなさい」

「あたし、今までに七人の男を知っていますのよ」

「何をいうのです」

「あたし、これでも、もう七人の男を知っているのよ。それを言ってみましょうか。一人はあるお寺の坊さんなの、一人は家へ置いた男、それから……」

「お黙りなさい」

駒井は情けない色を現わして、上から抑えるように女の言葉を遮りました。正気でない悲しさ。言うべからざることを口走り、聞くべからざることを聞くには堪えない。