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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

おともの庄公に向って、それとなく、お銀様見守りの役を言いつけました。

そのあとでお角さんは、なんとなく退屈してなりません。

というのは、この神様が、他の神様よりは広大な構えを持っておりながら、表がかりが、いかにも質素なのが、多少お角さんの気を腐らせたのかも知れない。

奉納物なんぞも飾ってないし、旗幟なんぞも見えないし、鳥居の数も少ないし、同じ海道でも、豊川様やなんぞと違って、派手な気分のないのが、お角さんと肌が合わないようです。

「姉さん、ここの神様は、何の御信心に利くの……」

と、茶屋の小娘に向って問いかけて、小娘を挨拶に困らせました。

四十

お角さんは、信心をするのは、神様を大切にすることには相違ないけれども、同時に、御利益をも授けていただくためのものだと解釈していますから、その神様神様には、おのおの持分があって、あの神様を信心すれば、いざりによいとか、ここの薬師様は眼病に利くとか、あの聖天様は勝負事にいいとかいったような、御利益の持場は日頃から、よく心得ていたものですから、「姉さん、ここの神様は何の御信心に利くの……」とたずねたのは、つまり、ここの温泉は何病によろしいかとたずねるのと、同じ御利益本位のたずね方でありました。