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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

軽く踏まれたといっても、相撲のことだから、相当にこたえたのでしょう、お角さんも、多少面白くないところへ持って来ての痛みだから、少し癇強く、「痛いねえ」が響きました。

「へ、へ、へ」

ところが、その相撲が、お世辞にもお詫びの言葉が出ないで、ニヤリと笑ってお角さんを見た、その目つきがグット癪にさわったらしい。

四十一

「人間が一人いるんだから、お気をつけなさいよ」

とお角さんが言ってやりました。ところが、その相撲は、

「へ、へ、へ」

相変らず、忌味ったらしい薄笑いで、当然出なければならないお詫びを意味した挨拶が、いっこう出て来ないから、

「何が、へ、へ、へ、だい、大きなずうたいをしやがって、頓馬だねえ」

お角さんが、啖呵を切ってやりました。これはこの場合、お角さんとして少し癇が強過ぎたかも知れません。

そう好んで喧嘩を売りたがるお角さんではないのだが、この時は虫の居所が悪かったのです。

「何、何じゃ……わりゃ、頓馬だと言いおったな」

相撲取が、急に気色を変えました。

こいつは、あながち取的ともいえない、勉強さえすれば十両ぐらいにはなれそうな奴だが、田舎廻りのために慢心したのか、最初からキザな奴だ。