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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

四十三

大八車の上に置き残された宇治山田の米友。多くの人の周章狼狽を解せないことだと思いました。

熱田の宮の前で喧嘩が始まったということが、忽ちに戦争に変化して、やがて、異国人が押寄せて来た! それ! という叫びで、すべてがあわてふためいて動乱して、我勝ちに走り且つ倒れつつ逃げたのは、甚だそのいわれなきことだと思わずにはいられません。

喧嘩にしても、戦争にしても、鬨の声一つ聞えないではないか。太刀打ちの音も、矢玉の叫びも、何一つ合戦らしい物の響はせず、もとより火の手も上っていない、狼藉者及び軍兵らの影も形も、一つも見えないではないか。それだのに、戦争! 異国人が押寄せて来た……

時代が少し怯え過ぎているとは米友は知らない。濃尾地方は地震がありがちの地だから、地震に関聯してそれ異国人、朝鮮人と、魂を浮動させるように出来ているのではないか、とも思いました。

浦賀へ来たペルリは軍艦四艘、人員二千人足らずであったが、江戸へは六百艘八万人と伝わり、京都へは三十万人と伝えられたそうな。彼等の祝砲に驚いて仏壇を背負い出し、彼等が敬礼のために一斉に剣を抜けば、素っ刃抜きと思って身構えをし、鉄砲を一組にして砂の上に立てれば、我に油断をさせておいて不意に襲撃するのだと疑い、葡萄酒や、麦酒の空壜を海に捨てれ