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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
30 畜生谷の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页
「はい、槍も少し覚えました」
「ほう、それは頼もしい、して、馬は?」
「馬――も少しばかりせめてみたことがございます」
「おお、それは一段、では、桜の馬場で、わしと一緒に一せめして、それから小日和田へ野馬をこなしに行ってみようではないか」
「はい……」
「武芸ばかりかの、そなたは、ほかに何ぞたしなみはないか」
「何も存じませぬ、未熟者でして」
「いや、そうではあるまい、そなたの剣術は本当に修行している、して、泳ぎは?」
「水泳でございますか」
「左様、水泳をそなたはやりますか。わしは水泳が一番の得意じゃ」
「ははあ」
「熊野にいた時は、時候もよくあったし、海が近いから、毎日泳ぎに行って、遠海まで泳ぎ廻り、二三日も館へ帰らぬことがあったから、領主が泣いていた。この飛騨には海がないのみならず、わしが食い足りるほど泳ぎたい池も、沼も、湖もない」
「ははあ」
「そなた、何ぞ、芸に遊ぶ心得はないか、たとえば、歌をよむこと、絵を描くこと、香を聞くこと、管絃をかなでることでもよろしい、さもなくば囲碁か、双六か」
「はい、いっこう何も心得ませぬが、囲碁ならば少々」
「ああ、それはよろしい、わしのところへ来て相手をしてたも……わしもここに閉じこめられて、鬱積して堪え難いのじゃ、わしを不憫と思うて慰めてもらいたい」