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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

そちは、それを悦ばしいとは思わぬか、早く、左様な時勢の来ることを望む気はないか」

「それは、いずれの贔屓という儀はござりませねど、人民一般のためより言えば、斯様な内憂外患の不安極まる世が明け渡って、天日を仰ぐような朗らかな時勢が来ることを、望まないはずはござりませぬ」

「それそれ、遠からずその世が来るのじゃ、夜が明けますぞ、北条、足利の時代が終って、万民の待ち望む中興の時代が来るのは、ホンの目睫の間である」

貴公子は、慷慨と共に前途に希望を置いて、おのずから、昂奮を禁じ得ざる態度であります。しかし兵馬は、自身、風雲児をもって任じておらぬだけに、この問題には、いつも、かなり冷静に見もし、聞きもしておりましたものですから、この時も、極めておとなしく言葉を加えてみました――

「しかし……かりに徳川家が倒れましても、第二の幕府が起るようではなんにもなりませぬ。北条が倒れて、後醍醐天皇の御親政は、ほんの僅かの間、また足利氏が出て、武家でなければ治まらなかったのではありませぬか。今、かりに、江戸の幕府が倒れても、長州とか、薩摩とかが代って天下を取るようになりますと、つまり公家の御威勢を肩に着て、やはり武家の世になってしまうのではござりますまいか。