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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

ですから、女中共が親切で起そうと、ゆすぶり震動させても、ついに呼び起すことのできない場合にも、怪しの者があって、抜き足して近づけば、必ずガバと醒めて、その手がおのずから、首の下にあてがわれた杖槍に届くようになっているのです。

ですから御覧なさい、半ば無意識で、夢うつつの境にぼんやり眼を据えながらも、その右の手は首の下に廻って、スワといわば、かの杖槍を変化自在に扱い得るように、あてがわれているのです。

三十二

果して、この一室へさいぜんから、怪しいものが闖入していたのです。だが、安心あってしかるべし、それは裏宿の七兵衛でもなく、がんりきの百蔵でもなし、今し、この室の一方の障子を押破って闖入し、今もうろうろとそこを歩いているのは、一つの真黒な動物でありました。

半ば以上を、今や三分の二以上といっていいほど意識を取戻した米友は、この真黒い動物に気がつきました。

その瞬間――猫にしてはズンと大きい、犬にしては丸過ぎる、犬と猫のいずれでもないという印象だけはうつりました。

犬と猫でないほどのものが、鼠でありようはずはない。犬でなく、猫でなく、鼠でないとすれば、どうしても、これだけの大きさを持ったものは、野獣のうちのいずれかに属しているものでなければならないと、その瞬間に感づいたものですから、米友は