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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
33 不破の関の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页
相応院の入相の鐘がしきりに、土手を伝い、川面を伝って、この捨小舟を動かしに来るのだが、がんりきの耳には入らないと見えて、暫くすると、またいい寝息で寝込んでしまいました。
この時分、捨小舟とは程遠からぬ川原の蘆葦茅草の中の、先達てイヤなおばさんの屍体を焼いた焼跡あたりから、一つのお化けが現われました。
がんりきの出動するのさえ早い時刻だから、お化けの出動はいっそう早過ぎると見なければならない時間に、お化けがうろうろしている。こんな業の尽きないおばさんの魂魄が、焼いても焼ききれるはずはないから、その焼跡にまだうろうろしていることも一応は不思議ではないが、ここに出現したのは、あの脂身たっぷりなイヤなおばさんの幽霊としては、あんまりしみったれで、景気のないこと夥しい。それは自分の焼かれた焼跡をしきりにせせくって、舐めたり乾かしたり、何ぞ落ちこぼれでもありはしないかと、地見商売のような未練たっぷりのケチケチしたお化けぶりです。
いっそ、こんなしみったれな真似をしないで、思い切って娑婆気を漂わせ、幸い、最も手近なるところにがんりきというあつらえ向きの野郎がいるのだから、そこらへ一番持ちかけて行ってみたらどんなものだろう――イヤなおばさんのこってりした据膳を、がんりきの奴がどうあしらうか、これは浅公なんぞよりはたしかに