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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

33 不破の関の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页

青空文庫

にもお雪ちゃんの姿を見出すことができません。それでも室内は出て行った時のまま整然として、誰も踏み込んだ形勢はない、お雪ちゃんのよそゆきであるべき衣裳すらが、そっくりと衣桁に掛けたままです。

三十

お絹の世話で、砂金掘りの忠作は、ついに異人館のボーイとして住込むことになりました。

ここで、親しく異人の生活の実際に触れてみると、忠作としては、今までの想像に幾倍する経験と知識とにあがきを感ずるほどです。

敏慧なこの少年は、ここで一から十までも学び尽さねばおかないという気になりました。

まず、異人館の間取間取を覚え、その器具調度の名を覚え、かの地から持ち込まれた商品と器械とを逐一に見学して、頭と手帳に留めてしまいました。

その間に西洋人というものの気風をすっかり呑込まなければならないと考え、西洋人にも幾通りもあることを知り、そうして、日本人の大部分が、それを毛唐という軽蔑語で一掃してしまうことの無知を今更のようにさとり、異人の気風を知るには、まず異人の国々を知り、その国々の歴史と成立ちをも知らなければならないということに気がつくと、その方面の学問を、多少に限らず頭に入れておかなければならないと知ったのはあたりまえです。