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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

33 不破の関の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页

青空文庫

米友が親切を尽すほどに、子熊がそれを受けていないことは相変らずで、食事から、尻の世話までも米友にさせて、今はこうして気の短い米友に、甘んじて三助の役目をさせながら、性も感もないこの動物は、これを感謝せざるのみか、洗われることを嫌がって、米友の手を離れたがるのであります。

「ちぇッ――手前という奴は、てんからムクとは育ちが違っていやがらあ」

米友は思わずこの世話焼かせ者の、恩知らずの動物に、浩歎の叫びを発しました。

事実、米友がこの子熊を愛するのは、熊そのものを愛するのではない、熊によって彼は自分の無二の愛友であったムク犬のことをしのべばこそ、どんな艱難辛苦を加えようとも、この動物と行程を共にしようとの気持になったのであります。

しかるに、形こそムク犬を髣髴するものがあれ、その心術に至っては、雪と墨と言おうか、月と泥と言おうか、ほとほと呆れ返るばかりであるのです。

全く同じ四肢動物ではありながら、ムク犬と、この子熊とは育ちが違う、育ちだけではない、氏が違うと言って、先天的に平民平等観の軌道を歩ませられている米友さえが、氏と育ちとの実際教育をしみじみと味わわせられ、子熊の度すべからざるを知るごとに、ムクの雄大なるを回想せずにはおられない。