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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

33 不破の関の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页

青空文庫

「合点だ」

駕籠をそこにおっぽり出して、向う鉢巻勇ましく、やにわに走りかかって来たのは、意外にも道庵先生の身辺でありました。

右の二人の逞しい、いけ図々しい雲助らは、道庵めがけ近寄ると見れば、無茶にも、惨酷にも、あっと言う猶予も与えず道庵に飛びかかって、さながらパッチ網にかかった雲雀を抑えるが如く、左右から道庵を押し転がし、取って抑えて、有無をも言わせません。

「あ、こいつは、たまらねえ」

そうして道庵がうんがの声を揚げ得た時は、もう、軽々と引きさらわれて、道に置き放した商売道具の四枚肩中へ無理に押込まれたその途端のことで、かくの如く、有無をも言わさず道庵を取って抑えて駕籠の中へ押込んだ雲助は、群がる見物の驚き騒ぐを尻目にかけて、そのまま駕籠を肩にして、

「エッサッサ、エッサッサ」

飛ぶが如くに西の方――つまり木曾川から岐阜、大垣の方面、道庵主従が目指す旅路の方面と同じではありますが――へ、雲助霞助に飛んで行ってしまうのです。

これは実に、誰にも分らない雲助の振舞であり、今日まで、脱線と面食いにかけては、かなり腕にも頭にも覚えのあり過ぎる道庵自身すらが、全く解釈のできない、非常突発の行為でありました。