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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
33 不破の関の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页
そこをお角は透かさず、
「なあに、そんなにみえを張らなくてもいいよ、そら、馬が頼んであるんだからね、あれがそうなんだよ――いいからお乗り。あのう、姉さん、お弁当が出来たら急いでこの人に渡して下さい」
お角さんは、門の中へ引き込んで来る一頭の駄賃馬の合図と、後ろの方、台所の方面へ向って女中へ弁当の催促を一度にしました。
女中は竹の皮包の握飯に、梅干かなにかを添えて持って来たものです。
さすがに万端抜かりがない、だしぬけに人を頼むには頼むようにする、こういうところだけは親方は感心なものだ。
米友は、お弁当を貰って腰につけ、そうして勧められるままに駄賃馬に乗せられてしまいました。お伝馬で旅をするなんて洒落たことは、これが初めてでしょう。まして行先は、名にし負う美濃の国、不破の郡、関ヶ原――
十五
こうして米友は、美濃、尾張から伊勢路へつづく平野の中を、南宮山をまともに見、養老、胆吹の山つづきを左右に見て、垂井の駅へ入りました。垂井の宿へ入ると、そこで流言蜚語を聞きました。不安の時代には、流言蜚語はつきものであります。健全なる時代には、よし流言蜚語を放つ者があっても、それが忽ち健全化されて、はねかえしてしまうけれども、不安の時代には普通の世間話までが流言蜚語の翼を添えるのは是非もないことです。