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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

「さあ」

「さあ、どうです――いけないでしょう。ですから、およしなさいと言ったのさ」

「だがなあ――まるっきりぐらさいというわけでもねえんだ」

「あのみずてんはいたかねえ」

「みずてんてのは、何さ」

「知らないね」

「さて」

とがんりきの百蔵は、脚絆をとってしまってから、長火鉢の前へ向き直ると、

「いっぷくおあがり」

お蘭のやつが、早くも吸附煙草をさしつけたので、百の野郎、にやにやしながら、

「有難え」

「こういったもんだろうね、飛騨の高山の宮川べりのみずてん宿で」

と言って、長火鉢の前で、がんりきのやくざ野郎に吸附煙草を吸わせて、それを傍から甘ったるく睨みつけたお蘭のあまが、百の野郎の股をつねりました。

「あ、痛え、冗談じゃねえぜ、こっちは、ちょんちょん格子をひやかしに行ったんじゃねえんだ、命がけで飛騨の高山まで大金をせしめに行ったんだ、ドコぞの色気たっぷりなお妾さんに孝行をしたいばっかりに」

「誰に孝行だかわかるものかね。そうしてなにかね、その孝行のきき目がありましたかい、みんごと三百両のお手元金を無事に取戻して来ましたかね。またあのみずてんがすんなりと渡してよこしましたかね」