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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

そうして置いて、黒い覆面が後退する。あとに残る犬共が、先後を乱して飛びかかる時分には、鼓楼の後ろの闇へ黒い姿は隠れてしまいました。

餓えたる犬共は、血迷い尽している。今までの単純な餓えと憤りのほかに、兇暴な復讐性と、先天的の猛獣性とが入り乱れて、相手の一人をあくまで追究して、その骨をまでしゃぶらなければ甘心ができないという執念に燃え出している。

ところが、鼓楼の背後でちょっと相手の姿を見失ってしまうと、犬共は塔に飛びつき、石に向って吠え、木の根にかぶりつき、々囂々として入り乱れながらも、影の見えない相手を追い求めて狂い廻っている。

この際、あの食べ頃な赤ん坊の肉体が忘れられていることだけが勿怪の幸い。

かくて、最後にあの裏門、すなわち台所門のところでありました。そこで、再び黒い覆面の姿を追い求め得たりと見ると、餓えたる犬が、また一斉に牙を鳴らしてしまいました。

黒い姿は、たしかに裏門まで追いつめられた形でした。

そこで一刀にズバリと一頭の犬をまたも真向から斬って落すと、また一時姿が見えなくなりました。同時にくぐりの小門にはさまれて頭蓋骨を微塵に砕かれた一頭がある。