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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
往手は枯枝や、蜘蛛の巣、それに足許に竹の切口や、木の株や、凹みなどもあって、危ない。ほとんど昼なお暗い、八幡知らずの藪のようになって、さしものお婆さんも少しひるんでいる。その時に与八がさきへ出て、
「お婆さん、この竹藪を突切って、一度むこうの竜王の土堤へ出て見ようじゃありませんか、土堤へ出て向うで聞いてみたら、知っている人があるかもしれませんよ」
「そうしましょうかね」
お婆さんも少々我を折って、二人は一応その竹藪を突切って、あちらの土堤へ出ようということになりました。
しかし、土堤へ出るつもりで竹藪を突切ってみたが、意外にも土堤へは出ないで、グッと田圃の眺望の開けたところへ出てしまったが、その途端に、
「あっ!」
二人の目を射たものは、真上に仰ぐ富士の高嶺の姿でありました。雪を被って、不意に前面から圧倒的に、しかも温顔をもって現われた富士の姿を見ると、お婆さんは真先にへたへたとそこに跪いて、伏し拝んでしまいました。与八は土下座こそしなかったが、思わず両手を胸に合わせ拝む気になりました。
甲斐の国にいて富士を眺めることは、座敷にいて床の間の掛物を見るのと同じようなものですが、大竹藪を突抜けて来て、思いがけない時にその姿を前面から圧倒的に仰がせられたために、二人が打たれてしまったのでしょう。