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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

さればこそ、鐚の奴も、命からがらああして逃げては来たが、やっぱり本性は違わずに、落着くべきところへ落着いたのだ。

「それにしても遅いな」

「遅いよ――鐚に申し含めてあるのだから、抜かりはないはずなんだが」

「正七ツ、三輪の金座――それは間違いないな」

「金座違いで、本町の方へでも出かけやしないか」

「そんなはずはない、鐚がよく心得ている」

「あんまり遅い」

「根岸からだから、ホンの一足だ、拙者は青山から来ている」

「拙者は割下水――」

彼等は、ひたすら神尾と鐚とを待兼ねている。それがこの問答でもよくわかる。

してまた、問題の三輪の金座というのも、この問答によって、ほぼわかりかけている。現に道楽者が集まって、神尾の来ることを待ちわびているこの屋敷が、即ちいわゆる三輪の金座なのだ。

なぜ三輪の金座なのか。なるほど、そう言われればそうだ。ここは金座頭の谷八右衛門の屋敷だ。主人は上方へ出張して目下不在中である。その留守宅へ、これらの連中は江戸の東西南北を遠しとせずして、定刻にほぼ集まっている。

その集会の目的が「悪食」であることは勿論である――悪食というのは、イカモノ食いにもっと毛を生やしたもので、食えないものを食う会である。