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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

彼は習い覚えた琵琶の秘伝の一曲を、生涯のうちに一度は竹生島の弁財天に奉納したい、というかねての希望を持っておりました。

今日は幸い、その希望を果さんとして、これから舟を借りて湖面を渡ろうとして、長浜の町から臨湖の渡しをたずねて来たのですが、そこは、勘がいいと言っても盲目のことですから、湖と陸との方角は誤りませんでしたけれども、臨湖の渡しそのものが湖岸のいずれにありやということを、たずねわずろうて、そうして、ついこの湖岸の城跡のところまで来てしまったのです。

この湖岸の城跡というのが、そもそも名にし負う、羽柴秀吉の古城のあとなのでありました。秀吉が来るまでは今浜といったこの地が、彼が来って城を築くによって、長浜の名に改まりました。はからずここへ足を踏み込んで、弁信法師は杖を立てて、小首をかしげてしまったのは、湖岸としての感覚と、古城址としての風物が、その法然頭の中で混線したからではありません。そこで、意外にも、例の残塁破壁の中に、動物の呼吸を耳にしたからであります。

思いがけなくも、何か一種の動物があって、この残塁破壁の中で、快く昼寝の夢を貪って鼾をかいている。