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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
米友が指さす前には、たしかに蓬莱に似たような島が浮んでいることは間違いがないのです。それは雲の影とあやまるにはあまりに晴天であり、陸岸の一部と見るには輪郭が鮮かに過ぎる――指さす目的物は見えないが、弁信が全く小首を傾げてしまいました。それは、今まで信じ切った自分の勘というものに自信が持てない。そういうはずはない。眼で見ることには見誤りがあっても、勘で行くことには誤りがないと、自ら信じて疑わない弁信法師が、この場合、正直な米友から、明白にこう証言されてみると、それをも疑う余地はないのです。
自分の勘によると、この舟は全く針路を誤ってしまったから、このままでは目的の竹生島へは行けないのみか、かえって全くそれと相反れた方面へ進んでしまう――と信じ切っていたのに、眼前に島が現われた時間からいえば、まさに竹生島に到着してもよい時間になっている。そうして、両眼の明らかな、心術の正直な同行の人が、現物を指して、島があるというのだから、弁信が考え込まざるを得なくなったので、
「米友さん、違やしませんか、もしやそれは、水の上や海岸に起りがちな蜃気楼というものではありませんか――そちらの方に竹生島があるとは、どうしても考えられません」