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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

「まあ、いいじゃないか、ゆっくりして行き給えよ」

「ゆっくりしていると、日が暮れらあ」

「日が暮れたら、泊って行き給え」

「そうしちゃいられねえんだよ、おいらはこれから人を探さなくちゃあならねえ」

「誰を?」

「そのお銀様という人と、それから……もう一人の人間を、今晩は夜通しかかっても探して帰らなくちゃあならねえ」

「それは、よした方がいいぞ、君」

「どうして」

「どうしてたって、夜は危険だよ、夜歩きをするのはあぶない」

「あぶねえことがあるもんか」

と米友が呟いて、よけいなお節介を言う人だという眼を以て見る。それをおだやかに、

「いや、このごろは、この静かな湖畔の町にも、相当に殺気が立っているから、夜歩きはやめた方がいい。君も知ってるだろう、このごろ、江戸の老中といって、権勢のすばらしいお役所から、役人が出張って、土地の検査をして歩いているのだ」

「うむ」

「その検査ぶりが不公平だというんで、人民が動揺している」

「うむ」

「それから君、姉川の方面では、水争いがはじまっているのだ、百姓たちが、おのおの自分の田へ水が引きたいといって、血の雨を降らさんばかりに騒いでいる」

「それは知ってる」