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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
と頻りに詫びるけれども、その表情を見るとけろりとしたもので、面のどこを見ても汗などをかいている痕跡はない。
「時に、少々、物を承りたい儀でござるが、この辺に知善院と申すお寺がござりましょうか、御存じならば御案内にあずかりたい」
「知善院――それは当寺でござるが」
「ははあ、では、御当寺がその宝生山知善院と申されるお寺様でござりましたかな」
「左様、当寺がたしかに知善院に相違ござらぬが」
二人の問答がここへ来ました。これによって見ると、道庵先生は戸惑いをして、このところへのたり着いたのではなく、たしかに、山号までも心得て、この寺を目的にやって来たもので、
「それは、それは」
改めて手を顔にして恐悦がり、
「御住職は御在寺でござりましょうかな」
「住職――ただ今、ちょっと無住――というわけではないが、その留守をかく申す拙者があずかっておりますが……」
「左様でござるか、それはまた何よりお手近い儀でござる、実は、愚老は、江戸から参上いたしたものでござるが」
「ははあ、江戸から遥々とお越しになりましたか」
「江戸の下谷に住居を致しおりましてな」
「下谷に……」
「下谷の長者町というところに巣を構えておりまして」