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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

「足を洗ったら、そこらの掃除をしなさい」

「はい」

「飯をたべたか」

「はい」

「まだだな。では台所へ行ってな、大工さんのおかみさんがいるから、ちょっとここへ来るように言ってくれ、大工さんのおかみさんに、関守が呼んでいると言ってくれ」

「はい」

「いまお前がはいって来たあの木戸から左へ廻るんだ――いいか、鑿の音や、鉋の音がしているだろう、あっちへ行くんだよ」

「はい」

汚ない小娘は包を抱えて、指さされた方へ向って行ってしまう。その後ろ姿に何ともいえぬ哀愁を覚えたのは関守氏ばかりではありませんでした。

「逃げて来たのですね」

と、甲州からの仕立飛脚が言いますと、関守氏が、

「いや、一人二人ずつ、このごろはああいうのが見え出しました、なかには首をくくろうとしているのを、出入りの大工が助けて連れて来た青年もおります、今は快く工場に働いていてくれます。働き得る人は、誰でも拒まない方針を採りたいものだと思っております」

甲州から来た仕立飛脚氏はここに於て、自分はここへ使に来たのだか、入園によこされたのだか、わからない気分にさせられてしまったようです――つまり、なんだか自分もここへ引きつけられて、居ついてしまわねばならないものでもあるかのような気持にさせられてしまったようです。