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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

38 農奴の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,484 字 · 60 页

青空文庫

その一方にはこうして、お角を火の玉のようにして転がし出して置きながら、そのあとを然るべき要領で、お角親方の連衆の一人にこしらえ、留守番をひとり守っている体にして、避難と、休息とを兼ねて、ゆっくりと落着くことができる、つまり、一石二鳥にも三鳥にもなるという寸法だ。これから、あの掻巻の中へ、すっぽりとくるまって、めまぐるしいこのごろの湖畔のやりくりの骨休めをすることだ。

「有難え、お茶を一ぺえ――甘えお茶菓子も有らあ」

そこで、お茶を飲み、菓子を食い、さて、ゆっくり掻巻へもぐり込んで一休みと、足腰をのばしにかかってみると、指が痛む。

「ちぇっ、右の腕はブチ落される、今度は残った左の方を小指からなしくずしなんぞは醜いこった――因縁ものだなあ」

と言いながら、繃帯を外して捲き換えている。長浜の浜屋で落された指一本の創あとがなかなか痛い。めまぐるしさにまぎれていたが、安心してみると痛み出す――懐中から薬を取り出して、それをつけ直している。また繃帯を捲き換えてみる。

十二

果して、がんりきの予想通り、お角さんは火の玉のようになって、この宿を転がり出たのです。