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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
38 農奴の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,484 字 · 60 页
今の神尾主膳も、百姓を見ると胸を悪くすること、この歴史から来ている。
この点に於て、神尾主膳は徳川家康の農民政策を支持している。
「権現様の収納の致し様」といって、百姓は、生かしもせず、殺しもせざるようにして搾れ――ということが、すなわち徳川家康の農民政策であったと今日まで伝えられているのだ。
毎年の秋、幕府直轄の「天領」を支配する代官が、その任地に帰ろうとする時、家康はこれらを面前へ呼びつけて、郷村の百姓共をば、「死なぬように、生きぬようにと合点いたし、収納申し付くべし」と申しつけたということである。
その伝統を承って、これは家康の落胤だと言われた土井大炊頭の如きは、ある年、その居城、下総の古河へ帰った時、前年までは見る影もなかった農民の家が、今は目に立つようになって来たとあって、「百姓、生き過ぎはしないか」と部下の役人へ詰問的の問いをかけたということになっている。
その当時の一村の名主の家には、必ず水牢、木馬の類が備えてあったのだ。百姓共が年貢を滞納する時は、水牢へ入れ、木馬に乗せてこれを苦しめたものだ。
それだけを聞いていると、いかにも農民に対して血も涙もないやり方のように聞える。