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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

東の衰える時は、即ち西に勢いの附く時である。それは、少なくとも関ヶ原以来のバランスだ。西の方で中心となるは、大藩のうちでも、薩摩、長州が動かなければ本当の幕府の脅威とはならない、それが現に動いている。動き過ぎるほど動いているが、ただ、薩長の勢力が動いたからとて、それだけではいかに動いても、天下の大勢をひっくり返すわけにはいかない。朝廷というものが中央においでになる、その朝廷の御稜威を借りて事をなさなければ、為すべき名分も、手段も立たぬ。よって薩長あたりが躍起となって策動している……

ここまでは誰も見る通りの時勢なのであるが、これからの観察と、解釈とが、この一座のものとして聞くのと、巷で聞くのとは大きな相違がある。鈴木安芸守はこういうように言うのです、

「策動はしているが、結局はモノになるまい、蛤門の失敗を、再三繰返すのみに過ぎまい、過激の壮士共や、変を好む浪人共と違い、朝廷におかれても、心ある堂上公卿は、内心みな徳川贔屓じゃ、徳川家の悪いところは悪いで改めて行き、やっぱり三百年の重しのかかった勢いでないことには、この内外の多難は救われない、たとえ、建武の中興が成ったとしても、帰するところは、やはり武家の世だ、かりに、徳川家に代って、薩摩あたりが勢力を張ろうとしても、長州が許すまい、幕府がある間は薩長相提携