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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
41 椰子林の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页
断わる神尾ではあるまいと見ていると、案外にも、今宵はこれで御免を蒙る、ほかに待っているのがあるからと言って、首を横に振ったのには、土肥庄次郎も、大師堂五郎魔も呆気に取られました。
三十七
ほかに待っているのがあると言って、吉原行きをことわって引返して来た根岸の侘住居。
これでは神尾もすでに老いたりだ、だが、他に待っている者があるとの口実が、いささか気がかりではある。
いったい、誰が、この化物屋敷に神尾を待っている?
待っていると言うたとて、ほかの者が待っているはずはない、先代ゆずりの、お絹という肌ざわりの相当練り上げられたのが、縮緬皺をのばして待っているくらいのもの。これが待っているからとて、附合いを外してまで戻ってやらねばならぬほどの、姉や思いの神尾ではないはずだ。姉やの方でもまた、一晩や二晩よりつかなかったからとて、おいたをしてはいけません、という程度のもの、きついお叱りがあろうはずはない。
それでも神尾は、夜のおそきを厭わず、御行の松の下屋敷へかえって来て、戸を叩くと、まだ寝ていなかったらしいお絹が、直ぐに戸をあけてくれたのを見ると、今日は、でかでかと大丸髷のしどけない姿。