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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

それから、茶の間へ入って見ると、どうでしょう、夥しい御馳走が、ちゃぶ台の上狭きまでに立てならべられて、膳椀も、調度も、取って置きのを特に持ち出したような体たらくですから、神尾が、いよいよくすぐったいような気持です。

まもなく二人がお膳についた時に、大丸髷のお絹が、きちんと身じまい薄化粧にまで及んで、たいへんな澄まし方でお給仕に立つのが、あんまり現金で痛み入るくらいのものでした。

「何もございませんが、今日はお婆さんの手料理ですから、たくさん召上っていただきます」

「お手料理かなあ、それは痛み入ったよ」

「お酒は差上げません、精進を妨げるとお悪いから、お酒は差上げません、その代り、お気に召しましたら何なりと」

「どうしてまあ、今日はこんなにもてなされるのかなあ、あとが怖いようだぜ」

「あとの怖いものは、今日はすっかり取上げましたから御安心くださいませ」

と言って、お絹がお鉢を取ってお給仕に当りました。

神尾としては、この女のもてなしで、こんな晴れやかな気分に置かれたことはない。

どういう了見で、今日に限って、こんなにまでしてくれるか、わからない。自分の誕生日でもなければ、父母の命日でもないのにと、うす気味が悪いほどだが、それでも悪い気持はしないのです。