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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

行くもかえるもうつつなや

忍踊りを一踊り

忍び行く、のべの川瀬は浅かれよ

君の契りは深かれよ

忍踊りを一踊り

君様に、ここに一つのたとえあり

清滝川も濁りそろ

なにとて君様つれなさよ

忍踊りを一踊り

君様を、思いかけたる庭の花

うらの妻戸を忍び入る

忍踊りを一踊り

忍び入り、君の枕に手をかけて

ここでこの夜を明かせかや

忍踊りを一踊り

今ははや、思いし恋いしがかのてそろ

枕屏風にかたよけて

物語りは限りなや

忍踊りを一踊り

若々しい老尼は、忍踊りの声を逐一、遠音の伴奏に合わせてうたい出したが、やがて手をさし、足をのべて、おのれも踊りながら歩いて行く。

「手ぶりなら、こちらへきてござんせえな、トトさんも、カカさんも、ニイも、ネエも、ボーも、マーも、みんな踊ってござんすわいなあ」

やれやれよういな

声が欲しいわいな

「ちょいとこなあ」

よう立つ声が

声で人をや、迷わすは

しょんがいな

これや名代の大原女、木綿小紋に黒掛襟の着物、昔ゆかしい御所染の細帯、物を載せた頭に房手拭、かいがいしくからげた裾の下から白腰巻、黒の手甲に前合せ脛巾も賤しからず、

「薪、買わしゃんせんかいな」

の姿は、以前の時によく見かけた。