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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

ている、彼は読者を魅惑し、説得するというよりは、これを聾せしめ、これを盲せしめ、そうして幻惑せしめている、力もここまで進んで来れば、これは一種の魔力である、要するに彼の嗜好は壮大ということにあり、彼の瑕瑾は過度ということにある――アミエルはこういうようなことを言っているのでありますが、私は、大菩薩峠の著者に就いてはなお以上のことが言えると思うのです」

「それは私の知らないことだ、わたしは大菩薩峠なるものを読んでいない」

声明学の博士は、季麿秀才の感情に走るを制するかのように、その論鋒をおさえて、

「私にこういう経験があるのです、私が若い頃、宮中に勤める身でありまして、ここの上人に就いて声明学を研究しようと思って、京都の今出川から、毎日毎夜、ここへ通いました。声明に就いて、私は絶大なる趣味と研究心を持っていたのですから、ことに若い時分の情熱も加わって、ほとんど隙さえ見出せば老師のお邪魔をしたものです。ある時のこと、これへ参向して、上人のおいでになる扉の外で、こういうことを考えたです、こうして、うるさく上人におつきまといして研究はいいが、自分も宮中に微職を奉ずる身を以て、かく大原の僧院まで毎日参学することは、職務に対しての聞えもいかがであり、且つまた上人に対して、かくばかりうるさくおつきまとうことのお煩わしさを