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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
41 椰子林の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页
だが、その難問に体当りをして行くには、科学が足りないことは省みずにはいられない。問うことを好まないこの女性が、ここで僅かにくちばしをきったのは、
「この絵は、いつごろのものですか、時代は」
ただ、それだけの質問を発しました。質問を受けた当の案内役は、以前のこましゃくれた、肖ている小坊主ではありません、しとやかな学僧の一人で、且つ、極めて無口の若者でありました。
「は、吉野朝時代でございます」
ただそれだけ答えたのみで、更に知識の先走りをしないのは、知らないのか、知っても言うことを好まないのか、それはわかりません。とにかくに、拝観人から、それだけの質問の口火を切れば、それをきっかけに、学僧によっては、滔々と知識を振蒔いて見せる、諄々と豪者を啓くの態度を取ってみたりする学僧もあるのですが、この学僧には絶えてそういう好意がなく、衒う気もありませんから、お銀様はそれ以上に知識を要求するの機会を失いました。
だが、吉野朝時代でございます、という簡単な応答に対して、お銀様をして相当の考証に耽らしめた余地はありました。この点は少々、不破の関守氏の与えた予備知識に不足がある、不足でなければ放漫がある、不破の関守氏は千年以上の作と言ったが、吉野朝ではまだ千年にならない。