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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
41 椰子林の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页
その時のことです、相模の国の二宮金次郎という先生が、その年の季候をたいそう心配しておいでなさいましたが、土用にさしかかると、もう空の気色がなんとなく秋めいて来て、草木に当る風あたりが、気味の悪いほどヒヤヒヤしていましたが、ある時新茄子をよそから持って来てくれたものですから、その茄子を糠味噌へつけさせて食べてみますと、どうしても秋茄子の味でございますから、これは只事ではねえぞ、さあ村の人たちよ、饑饉年が来るから用心しなさいと言って、その晩、夜どおし触書をつくって諸方へ廻して、皆の者に勧めることには、明地や空地は勿論のこと、木棉を植えた畑をつぶしてもいいから、作をつくりなさい、蕎麦、大根、蕪菁、にんじんなどをたくさんお作りなさい、粟、稗、大豆などは勿論のこと、すべて食料になるものは念を入れてお作りなさいとすすめ、御自分では、穀物の売物があると聞くと、なんでもかまわず、ドシドシ買入れ、お金が尽きた時は、貸金の証文までも抵当に入れてお金を借入れ、それで穀物を買い、人にもそのようにおすすめになりましたが、なにをそんなに二宮様がおあわてなさる、と本気にしなかったものもあるでございましたが、先生を信仰する人は、おっしゃる通りにやって、大助かりに助かったそうでございます。