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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

まことに、日本は天皇の国にして百姓の国也。天皇は親にして百姓は子也。関白、将軍、国主、郡司、諸々の門閥は皆後世この百姓の間より出でて、或は国家に功あり、或は国家に害を為す。功あるは即ち天皇と百姓の間を助くるなり。害あるは則ち天皇と百姓の間を紊すなり。

中世以後に漸く『百姓』の名を農耕者に限るやうになり行くと共に、これに下賤軽蔑の色を附与したるは、まさしく中間勢力の横暴の致すところなれば、日本の政治の革新は、天皇と百姓の間を、古の美風に帰すことなり。

かく、百姓は即ち万民の意味にして、農耕業者に限りたる約束は更になしといへども、百姓の基本業が則ち農耕に存すること、万世渝ることあるべからざる也。

それ、如何に世態変化するとも、人は衣食住なくして生くること能はざるなり。而して衣食住の生産は農業を待ち、これを為すより外にその道あるべからず。政治は即ちこの生産を助長するの道にして、商工は即ちこの生産を融通するの道也。根幹を侮りて、枝葉のみを繁茂せしむる国は危し。

されば日本の百姓たるものは、自らが天皇の大御宝たることを畏み、専らこの道をつとめ、国に三年の蓄へあり、人に三年の糧あり、而して後に四方経営を隆んにすべきなり。