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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
41 椰子林の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页
さても、山城の国、綴喜の郡、田辺の里に逗留の道庵先生は、健斎老の取持ちで、何もございませんがと言って、上方名物のよき酒に、薪納豆を添えて振舞われたものですから、大いによろこびました。これは酬恩庵名物の一休禅師伝来、薪納豆というものだと聞かされて、道庵がなっとうしました。
道庵は、この機会に、一休禅師の研究をはじめることになりました。道庵は、一休は話せる男だと思い、一休の方では、道庵は知らないと言っている。いずれにしても、酔眼に人なき道庵も、一休禅師には一目ぐらいは置いているらしい。これから大阪へ行って、ひとつ親類のお墓参りもしてやらずばなるまいと、酒の間に口走ったところを見ると、大阪あたりに親類などはなかるべきはずの道庵が、変なことを言うと思って、問いただしてみると、大阪に永富独嘯庵の墓があるから、それをひとつ訪ねてやろうと思ってるんだよ、と言う。してみると、永富独嘯庵なるものは、道庵の親類筋に当るのかも知れない。
それはトニカクとして、この機会に道庵は酬恩庵をおとずれて、古蹟をたずね、筆蹟を見て、しきりに慈姑頭を振り立てました。山陽の書を見てくれの、崋山の画を鑑定しろのと申込んで来る茶人もいたが、そんなのは一切、道庵の眼中になく、一休禅師の筆蹟だけは相当丹念に見ました。