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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

この時、浪士の右の足が撥ねたかと思うと、米友の胸板めがけて、肋も砕けよと蹴りが一つ入ったものです。普通ならば、これだけで事は解決してしまうのですが、

「何をしやがる!」

と米友は、蹴りを入れたその足を、両手でがっきと受留めて、こぐら返しに逆にひっくり返したものですから、蹴りはきまらず、浪士の身体が横ざまにひっくり返って、あっぷ、あっぷと言いました。

その事の体が、今まで、さげすみ半分に、処分をこの一人に任せて、傍観の体勢でいた献上の一行を、残らず沸騰させてしまい、

「こいつ」

「この野郎」

「この馬鹿野郎」

「この身知らず」

「こいつ、気ちがいだ」

「泥棒だ」

「胡麻の蠅だ」

寄ってたかって袋叩きの乱戦になると、こうなると、宇治山田の米友が本場です。

こういう喧嘩にかけては、相手の拳を受けて立つような男ではない。相手の一つの拳が来る前に、ぱた、ぱた、ぱたと三つ四つは、こっちから打ちが入っていて、あっ! と言わせる間に素早く飛びのいて、例の金袋を引っかつぐや否や後ろへさがったのは、逃げるつもりではない、足場をつくるつもりらしい。

十八

そこで、梨の木を一本、後ろ楯に取って、袋をかこい、蟠った米友は、例の手練の杖槍を取って、淡路流に魚鱗の構えを見せるかと思うと、そうでなく、後ろにかこった金の袋の結び目へ手をかけ