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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

しかしこの独楽が、まだ充分に抑えきられていないことは、多勢を相手に必死の抵抗が乱闘となり行くことでわかります。

お松は全く気が気でありません。

せめて、この相手の一人が、何とか言葉を出してくれればいいと思いました。

何とか一言いってくれれば、この気がいくらか休まると思いました。いいえ、そんなどころではない、追われて来て、ここで組み止められている人が、七兵衛おじさんでなければ果して誰でしょう。

違いない、違いない、七兵衛おじさんがこうして追い詰められて、いま、つかまろうとしているところだ。

ああ、どうしよう。

自分の力では――出ていいか、出て悪いか。出たところでどうなるものかと言ったって、みすみすああして、捕まってしまうものを……

「うぬ、てごわい奴!」

「あっ!」

「失敗った!」

この失敗った! という一語が、どちらの口から出たのか。それだけが、わくわくしていたお松の耳にそれてしまいました。いや、たしかにその一語を聞き止めたには相違ないけれども――それがいずれから出たのか、仏兵助と名乗りをあげた桶屋さんの口から出たのか、追いかけられて組みつかれた七兵衛おじさん――仮りにその人だとして――の口から出たのか、お松が聞き漏らしました。