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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

江月いづれの年か初めて人を照せし

人生代々窮まりやむことなく

江月年々望み相似たり

知らず江月何人をか照す

ただ見る長江の流水を送ることを

白雲一片去つて悠々

青楓浦上愁ひに勝へず

誰が家ぞ今夜扁舟の子は

何れの処ぞ相思ふ明月の楼

憐れむべし楼上月徘徊す

まさに離人の粧鏡台を照すべし

玉戸簾中まけども去らず

擣衣砧上払へどもまた来る

此時相望めども相聞えず

願はくば月華を逐うて流れて君を照さん

鴻雁長く飛んで光わたらず

魚竜潜み躍りて水文をなす

昨夜かんたん落花を夢む

憐れむべし春半家に還らず

江水春を流して去つて尽きんと欲す

江潭落月また西に斜めなり

斜月沈々として海霧に蔵る

碣石瀟湘限り無きの路

知らず月に乗じて幾人か帰る

落月情を揺かして江樹に満つ

これだけの詩を一句も余さず、清澄の茂太郎が、吟じ来り吟じ尽してしまったものですから、今度は、天地が動き出したほどに玉蕉女史が驚かされてしまいました。

まあ、この子は、何という子だろう、化け物ではないかしらとまで呆れ、

「まあ、田山先生、あの子は……」

と言ったきり、あとの句がつげませんでした。

「は、は、は、は」

と、テレきっていた田山白雲が高く笑いました。