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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

「そら、茂ちゃん、だからいけません、あんまりしつっこいから、とうとうお泣かせ申してしまいました」

と叱るのはばあやの声。

「いいよ、いいよ、お泣かせ申したって、また、あたいが笑わせてあげるから、いいじゃないか。さあ、登さん、ごらん、あたいが踊ってあげるから、ばア」

それは茂太郎の声。登も御機嫌がなおったと見えて泣きやんでいると、茂太郎の声色めかした気取った声で、

うんとことっちゃん

やっとこな

そうれつらつらおもんみれば……

そこで、登といわず、ばあやといわず、一同がやんやと喝采したその声を聞くと、船頭もいれば、大工も交っているらしい。やんやとうけさせた御当人を想像すると、これはどうやら団十郎をやっているものらしい。目口をかわかし、台詞をめりはらせて、大気取りに気取ったところが目に見えるようです。駒井もそれを聞くと、ほほえまれずにはおられず、なんとなく陽気な気分になるのです。

そこで駒井も、自分もひとつその船室へ入り込んで見ようという気にまでなったが、かえって一同を驚かせて、せっかくの興を殺いではいけない――と、その前を音立てず素通りをしてしまいました。

二十九