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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

主膳はこう言って、三眼爛々として、西洋婦人の豊満な肉体美をながめているうちに、その女のかおかたちがだんだんお絹に似てくる。お絹でありようはずはない、第一、頭が金髪で、色の白さは似ているとしても、その肉づきがお絹でないことはわかりきっているが、嬌然笑っているいやらしい笑い方が、だんだんとお絹の面になってくると、肉体そのものまでが異人ではない、明暮自分のそばにいるあの模範的の淫婦娼婦だ。

そう思ってくると、その笑い方が、からかい気味になったり、思わせぶりになったり、いやがらせ気味になったりして、主膳をなぶって来る。

「ちぇッ」

主膳の三ツ眼はクルクルとして、その絵の傍へもう一つの幻影をこしらえて、それを燃ゆるような眼で睨み出しました。もう一つの幻影というのは、そこへ、赤髯の大きな脂ぎったでぶでぶの洋服男が一つ現われて、いきなり、裸体婦人の後ろから羽掻じめにして、その髯だらけの面を美人の頬へ押しつけて、あろうことか、その口を吸いにかかったのです。幻像がそうなった時、こんがらかった主膳の三ツ眼が全くくらくらとして、手が早くも躍動すると、無茶に畳に落ちた折鏡の全体を拾い取り、力を極めて、発止! と投げつけたのが日頃お絹が身だしなみをするところの丸鏡の正面であります。