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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

「何者だ!」

白雲として、自分ながらかなり慌しい挙動であると思ったが、事態、そうしなければならない場合を、先方は全く静かなもので、

「先生、お静かに」

と、たしかにうずくまった奴が、説教でもはじめるように物を言いかけました。

「何だ、何者だ、貴様は」

白雲は半分起き直って、刀を引寄せていました。そうして、もう睡眼がパッと冴えた眼で見ると、行燈の下にうずくまっている奴は、旅の合羽を、肩からすっぽりと着て、頭には手拭を米屋さんかぶりに捲いている。

「先生、お約束によって参上いたしましたが、少々遅くなって相済みません」

でも、まだ白雲には、はっきりと納得ができない。

「貴様、どろぼうの端くれだな、貴様たちと約束をした覚えはない」

大抵のどろぼうならば、この豪傑画家の白雲から一喝を食えば、尻尾を捲くであろうのに、こいつに限ってどこまでも、いけ図々しい。

「お忘れあそばしましたか、日中、あの名取川の川原でお目にかかりました、蛇籠作りの老爺でございます」

「うむ、そうか」

白雲がまたここで、そっくり返らざるを得ません。

そうか、そんならそうと、なぜ早く言わないのだ。それにしても、いよいよ変な老爺だ、いったい、いつ、どうして、この間に、誰に案内されて入って来たのだ――というその咎め立ても、こうなっては気が利かない。