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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

はい、承知を致しました、やり損ないは御容捨を願いまして……」

「うむ――貴様」

田山白雲は徒らに眼をむいて、大きな唸りを発するのみであります。

その時にまた鶏が啼きました。そうすると、平べったくなっていた老爺が、急にのし上り、

「では、これで失礼を致します、御免下さいまし」

すっくりと立って、障子の隙間から――事実は相当にあけて出て行ったのですが、白雲の眼からは、あのままで、畳の中へ吸いこまれてしまったのか、でなければ、障子の隙間から消えてしまったようにしか受取れないので、やっぱり眼を光らして呆れ返って、さて、ホーッと太い息をついたのみであります。

九

駒井甚三郎の無名丸が、あれからああして、無事に牡鹿郡の月ノ浦に着いたのが、洲崎を出てから十四日目の夜のことでありました。

着船は、わざと夜を選んだのは、駒井の思慮あってしたことでしたが、無論その前後、この辺の漁船商船が、駒井の異形なる船の出現を怪しまないはずはありません。

だが、朝になって見ると、その船の上に、仙台家の定紋打った船印が立てられてあることによって、浦の民が安心しました。

御領主の御用船とあってみれば、文句はないのですが、駒井がそうして無断に仙台家の船印を濫用してよいのか、一時の策略で、それを利用してみても、あとの祟りというものは