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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

そうして、お松は親柱のところへ来ると、また、思わずギョッとして立ちすくんでしまい、

「まア――」

檣柱の下の俵を積んだ上に、人が一人、黙って坐り込んでいる。

「茂ちゃんじゃないの」

「あい」

「まア、お前――」

お松は、呆気にとられました。出鱈目のうちの出鱈目、饒舌のうちの饒舌である清澄の茂太郎が、ほとんど化石の彫刻みたように、チョコンとしてその俵の上にのせられたもののように坐っていたからです。

熟睡していた人なら知らぬこと、今まであの騒ぎを知っていながら――一言も、この子の伴奏がなかったことは不思議中の不思議。それを今まで不思議とも感じなかったほど、自分たちは何かに制せられていたことを、いま気がついて見ると、やや明け方の光で見たこの少年の面色が、いやに沈み切っていることに、またなんとなく胸を打たれないわけにはゆきません。

「いったい、お前、そこに何していたの、どうしたんです」

「あたいは、七兵衛おやじを見つけ出そうとして、ここに一晩中ながめていたの」

「一晩中?」

「ところが、七兵衛おやじの姿が見えません、何をおいても見えなければならないはずの七兵衛おやじが、来ていないことを見ると……」