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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

今朝に限っての朝寝昼寝を充分に保証された船の人も、日が三竿にもなって、相当の時が来れば、そうそういい気持で内職の船を漕いでばかりはいられないと見えて、一人、二人ずつ面が揃ってくると、早くも、

「おや、ボートが一ぱい足りねえ――おや、船窓があいている、マドロスが――もゆるさんが――まあ、荷物が――」

二人の姿が全く親船の中から見えないのです。二人ともに、手廻りの物が程よく取りまとめられて持ち出された形跡も充分ですから、合意の上で逃げたものと見るよりほかはありません。どちらがどうそそのかしたか、そのことはわからないが、いずれにしても、相当の合意をもって計画的に馳落を遂げてしまったということは、疑う余地がありません。

呆れ返るもの――罵る者――地団駄を踏む者――直ぐに追いかけて、あん畜生、とっ掴まえて今度こそはと、マドロスを憎むこと骨髄に徹する者もある。もゆるさんももゆるさんだ、何だってあんな毛唐にだまされて、いったい、あのウスノロのどこがいいんだ――と歯噛みをする者もある。

お松としては、言句も出ないほど浅ましい感に堪えなかったので、傍えにいたムクをつかまえて、こんなことを言いかけてみました。