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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

」

「何を言っているのだ、どうも、今晩のお前の挙動というものは、全く拙者にはわからない」

駒井は、いよいよ深く解し兼ねていると、鐘が鳴りました。

寺の境内のことですから、その鐘が、突き抜けるように間近く響きました。七兵衛は、あわただしく立ち上り、

「では、時刻が遅れますと、なんでございますから、これでお暇……」

入って来たところから、完全に出て行ってしまったのですが、駒井はどうしても、夢でなければ魔である――物の怪を信ずることの絶無な駒井甚三郎が、何か実物以外の影の尾を曳いている姿を、認めようとして認め得られなかったのです。

十五

その翌朝、舟を雇うて、松島から石巻湾を横断して、月ノ浦に帰った駒井甚三郎は、何はさて置き、昨夜の怪事を田山白雲に向って物語りました。

白雲は、自分が逢わせられたと同じ型を、異った舞台面で見せられた駒井の経験に、またおぞけをふるいました。そうして同時に二人が、七兵衛なる者が、今まで見ていた通りの篤実なおやじで、世話好きのために、桁の外れた道楽にまで踏み込むことを悔いない、珍しい田舎者だと見た見方を変えなければならなくなりました。