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だいぼさつとうげ

大菩薩峠1

中里 介山

中里介山『大菩薩峠1』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠、大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,314 字 · 398 页

青空文庫

竜之助がこの中へ入ると、雲も霧もまた一緒に捲き込んで行く。

見返れば社殿に上げられた篝火、燈籠の光はトロリとして眠れるものの如く、立ち止まって見るとドードーと七代の滝の音が聞ゆる。

立ち尽していると頭上で御祈祷鳥が鳴く、御岳山の御祈祷鳥は高野の奥に鳴くという仏法僧。

ふと、霧の御坂の方から人の足音がする。

「竜之助様か」

それは女でした。宇津木文之丞が妻の声でした。

「お浜どのか」

「あい」

「…………」

「御用心あそばせ、暗討がありまする」

「暗討?」

「お前様を討とうとて同流の手利が五人、ただいま宿を出てこれへ参りまする」

女の触れた手は熱かったが耳につけた口の息は火のようです。

「お浜どの、ここはあぶない、あれに隠れて」

目の前なる塞の神の社を指しますと、

「竜之助様、あなたは斬死をなさる気か」

お浜は竜之助の行手を遮るようにして、

「あなたがここで斬死をなさるなら、その前にわたしを殺して」

「なに?」

「文之丞は死にました」

お浜の声は震えて低い。

「宇津木の妻は去られて来ました」

竜之助はなんとも言いません。

「どこへ行きましょう」

御祈祷鳥がまた鳴く。

「甲州へは帰られません」