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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

中里介山『大菩薩峠10』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 页

青空文庫

爆裂玉のように、急にハネ出すこともなし、油のように、メラメラと薄っぺらな舌も出さず、くすぶり返って気永に焼くには、炭団に限ると思いました。

七兵衛がこうして納まり返っているけれども、この広い座敷へは、無論、夜明け早々からの客のつめて来るはずもなし、そうかといって、主人なり、雇人なりがいるならば、とがめないまでも、何とか言葉をかけそうなものを、そんな気配は更になく、ひっそり閑としたものですから、七兵衝は炭団を肴に、また煙草をのみはじめ、座敷の中を見るとはなしに見まわしているうち、なんとなく無常の感というものにでも打たれたように、大きな溜息をついて、壁の一隅につるしてある薩摩屋敷の轡の紋のついた提灯を見て、じっと物を考え込んでしまいました。

「つまらねえな」

七兵衛が思わず口走った時分に、平常ならばお銚子の一つもかえて、まぎらかそうというものだが、この時はそれができないで、

「つまらねえなあ、ほんとに……」

七兵衛は煙管を取落して、炭団をつくづくとながめました。

七兵衛は今、急につまらなく、情けなくなって、あぶなく涙をこぼそうとしました。

昨夜、七兵衛はあれから、江戸城内のどこまで忍び込んで、どこを出て来たかわからないが、夜が明けて見ると、なんとなくうちしおれていたのが、今になって一層目につきます。