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だいぼさつとうげ

大菩薩峠11

中里 介山

中里介山『大菩薩峠11』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 368,567 字 · 720 页

青空文庫

「殿様の御隠居なんだろう」

「御隠居――それにしちゃあ、年が若えのう」

「だって、ただのさんぴんじゃ、こんなお邸は持てねえや、殿様だよ、殿様にしておかねえと悪いや」

「殿様? ほんとうに殿様か知ら、じゃあ、加賀様かえ」

「馬鹿――加賀様は百万石だ、殿様だって、ここん殿様あ、そんな大名と違わあ」

「じゃあ、何て殿様?」

「殿様は殿様だが、お旗本だよ」

「お旗本の何て殿様なの――」

こうたずねられて、悪太郎の兄い株が少しテレているのを見る。

百万石の殿様でないことはわかっている。お旗本の殿様だと仮定してみる。百万石必ずしも大ならず、小なりとも、お旗本にはお旗本の貫禄があるということも、子供心に納得はしているらしい。だが、ここの殿様は、何という殿様――何様のお屋敷とたずねられては一方ならず迷う。重代の屋敷地ならば知らぬこと、ここへ来たのは昨年であり、御門には表札もなければ、誰もまだ熟したお邸名を呼んでいる者はない。染井のあの屋敷ならば、その以前から人は化物屋敷の名に恐れているが、ここの屋敷には、先住が越して空屋となっていること久しく、呼びならわしたなんらの邸名が無い。