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だいぼさつとうげ

大菩薩峠19

中里 介山

中里介山『大菩薩峠19』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 319,771 字 · 617 页

青空文庫

「では、読ましてくれ」

と言わざるを得ませんでした。

五十三

その翌日、珍しくもよく約束を踏んで、悪食が、昨日約束の書物を届けてくれました。

これが、当時評判の勝麟太郎の父親の自叙伝であるそうな。

徳川の末世を背負って立つ男は、小栗か勝だろうと、かりそめにまでうたわれるくらいの人間と聞いて、これも珍しく神尾が勝のことを注意する気になりました。

受けて見ると、その書の標題は前出の如く「夢酔独言」という。

巻頭に書き添えた勝家の系図というのを見ると、神尾が軽蔑の気持になって、

「なあんだ、勝の先祖、元は江州坂田郡勝村の人、今川家に仕えて塩見坂に戦死、市郎左衛門に至り徳川氏に仕えて天正三年岡崎に移る――十八年江戸に移る、家禄知行蔵米合わせて四十一石、か」

家禄知行蔵米合わせて四十一石、というところに神尾が憫笑を浮べました。

特に軽蔑したわけではあるまいが、そういう時に、冷笑が思わず鼻の先へ出るのがこの男の癖です。

神尾の家柄は三千石でした。

「万治三庚子十二月卒百五歳――ふーむ」

四十一石の高は軽きに過ぎるが、百五歳は多きに過ぎる。四十一石の小身は稀なりとはしないが、百五歳の長生はザラにあるものではない、と感心しました。