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あまくさのはる
天草の春
長谷 健
「九州路抄」日本交通公社、1948(昭和23)年9月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,293 字 · 15 页
鬼池あたりからの雲仙が、もつともよい、というさる歌人の随筆を読んだことがある。なるほど晴れ渡つた青空に浮く普賢眉の両山の眺めは、早崎海峡をひかえているだけに、雄大ではあるが、その真反対の北側の雲仙を永年見なれて来た私にとつては、何となくものたりない。雲仙はやはり北方からの眺めに如くはなし、というのは、私の郷土びいきのせいであろうか。
二江を過ぎると、通詞島がある。べつだん解説書を見たわけではないが、開国のころ通訳の居住していた島ではないだろうか。やがてバスは、坂瀬川上津深江にさしかかる。天草無煙炭の産地として知られている。海岸の突端に、石炭運搬路がくすぼつて見えるが、今まで美しい風景を見なれて来た眼には、何となくそぐわない感じだ。バスの客は少しずつ減るが、それに反してバスの動揺はいよいよはげしくなるのであつた。
十二時少し過ぎ、富岡着。
満員のバスの中で私のかばんを抱いていてくれた青年が、私に話しかけて来た。私も多分この土地の人ではあるまいと想像していたが、果して彼は朝日新聞の社員であつた。べつだん観光以外の目的があつて、この地に来たのではないので、名刺を交換すると、とりあえず私は彼の行先である、九大臨海実験所に随行することにした。