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「ダブックウ」ひょうりゅうき

「太平洋漏水孔」漂流記

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,264 字 · 37 页

青空文庫

手紙の主フリードリッヒ・キューネは、独逸ニューギニア拓殖会社の年若い幹部であった。以前はお洒落で名高い竜騎兵中尉。それが先年、ベルリン人類学協会のニューギニア探険に加わって、以来南海趣味にすっかり溺れこみ、退役してニューギニア会社へきたのだ。スポーツマン、均斉のとれた羚羊のような肢体。これで、一眼鏡をしコルセットをつければ、どうみても典型的貴族出士官だ。

そのキューネが、この五月に破天荒な旅を思いたち、独領ニューギニアのフインシャハから四千キロもはなれた、かの「宝島」の著者スチーヴンスンの終焉地、Vailima 島まで独木舟旅行を企てたのである。両舷に、長桁のついた、“Prau”にのって……かれは絶海をゆく扁舟の旅にでた。そして、海洋冒険の醍醐味をさんざん味わったのち、ついに九月二日の夜フインシャハに戻ってきた。――話はそこで始まるのである。

土人の“Maraibo”という水上家屋のあいだを抜け、紅樹林の泥浜にぐいと舫を突っこむ――これが、往復八千キロの旅路のおわりであった。ところが、海岸にある衛兵所までくると、まったく、なんとも思いがけない大変化に気がついたのだ。