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「ダブックウ」ひょうりゅうき
「太平洋漏水孔」漂流記
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1940(昭和15)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,264 字 · 37 页
中にあるという、折竹の言葉には一驚を喫しないわけには往かない。
「それが、東経百六十度南緯二度半、ビスマルク諸島の東端から千キロ足らず。わが委任統治領のグリニッチ島からは、東南へ八百キロくらいのところだ。つまり、わが南洋諸島であるミクロネシアと、以前は食人種の島だったメラネシア諸島のあいだだ。そこに、世界にもう其処だけだという、海の絶対不侵域がある」
「ほう、まだ未踏の海なんてこの世にあるのかね。で、名は?」
「それが島々でちがうんで色々あるんだがね。ここでは、いちばんよく穿っているニューギニア土人の呼びかたを使う。Dabukk――。つまり『海の水の漏れる穴』という意味だ」
土人の言葉には、ひじょうに幼稚な表現だが奇想天外なものがある。この“Dabukk”などもその一つ。直経百海里にもわたるこの大渦流水域を称して、「海の水の漏れる穴」とはよくぞ呼んだりだ。
そこは、赤道無風帯のなかでいちばん湿熱がひどいという、いわゆる「熱霧の環」のなかにある。そしてその渦は、外辺は緩く、中心にゆくほど早く、規模でも、「メールストレームの渦」の百倍くらいはあろう。ましてこれは、鳴門やメールストレームのような小渦の集団ではなく、渺茫数百海里の円をえがく、たった一つの渦。